2017年2月1日の東京新聞に、製品事故に関する報道がありました。過去10年間に身近な製品を使って起きた死亡事故が少なくとも計770件発生し、死者は903人に上るとのことです。記事中では、「不注意や誤った使い方が原因とみられる事故が全体の4割を占め、製品を正しく使えば救えた命は多い。」とコメントされています。

このコメントをみて、私は二つのことを思います。一つは、①「不注意や誤った使い方」であったのかどうかは誰がどうやって決めるのかということ。もう一つは、②「不注意や誤った使い方が原因」ではなかったとされる残りの6割はどうなったのかということ。

①については、私は現時点で製造物責任法が適用された全判例を確認していますが、裁判上は何が「不注意や誤った使い方」であるかについて一般的判断基準が示されたことはありません。弁護士として製品安全に関わる事故を取り扱ってきましたが、その経験としても、製品事故の当事者やNITEなどの事故原因調査機関がそれぞれの感覚に従って発言しているだけのように思われます。(なお、この記事の取材先もNITEであるようです。)

②については、製造業者・販売者から自主的な被害弁償がなされていると期待したいところですが、これについては資料がありません。自主的な解決がなされていない場合には何らかの相談機関に相談することになると思われますが、その場合に最終的な解決に至る例は多くありません。(これについては2014年に調査を試みたことがあり、詳細は同年7月のPLオンブズ会議報告会で報告しましたが、結論としては、相談機関に寄せられた相談件数のうち75%以上は解決に至らずそのままになっていると思われました。)

結局のところ、製品事故の被害救済は製造業者・販売者による自主的な解決に負うところが極めて大きく、しかしながら、その製造業者や販売者が「不注意や誤った使い方」であったと考えた場合には、その正否を判断する基準も曖昧ということであって、何とも製品ユーザーにとっては心もとない現状です。そのことは、製品事故に遭った個々の被害者に不利益であることはもちろんですが、悪い製品を市場から排除する力が弱いということであって、社会全体にとっても不幸なことであるように思います。

この新聞記事では、どうすれば製品事故で失われた命を救えたのかについて、「家族ら周囲の人が使用者に注意を促すのも有効だ」というNITEのコメントを紹介しています。そうかもしれません。ただ、それだけではなく、本当に製品に問題はなかったのかを相談できる道筋を作ること、安易に「不注意や誤った使い方」であったという結論で終わることのないようにすることも重要であると思います。

この新聞記事をみて、そのような感想を持ちました。