先日、池袋での自動車暴走事故の刑事初公判で、「車のシステムに何らかの突発的な異常が生じ加速し、事故に至った可能性がある」と主張したとの報道がありました。原資料に接していない私にはその主張の当否は分かりませんが、交通事故における欠陥主張については思うことがあります。

 

日本では、刑事・民事を問わず、裁判で車の欠陥が問題になったことは少なく、認められたこともほとんどありません。

他方、アメリカでは車の欠陥は主要な製造物責任類型の一つです。連邦裁判所だけでも年間400件程度の製造物責任訴訟が提起されており、州裁判所も含めた全裁判件数がどれほどになるのかは見当もつきません。

(連邦裁判所における製造物責任訴訟提起件数の内訳についてのデータ:https://www.uscourts.gov/sites/default/files/data_tables/jb_c11_0930.2019.pdf

日本国内の車の方がアメリカ国内の車より安全だということを説明する材料はありませんので、日本でもアメリカと同様、実は交通事故の中にも車の欠陥が関係しているものがあり、ただ、それが裁判として表に現れていないだけ、と考える方が素直であるように思います。

(なぜ裁判件数が日米でこんなに違うのかについては、文化・国民性の違いと言ってしまえばそれまでですが、敢えて要因を探すと、自動車保険の相違(=アメリカの自動車保険制度は人損全額を補填する制度設計になっていない)・医療制度の相違・懲罰的損害賠償制度の有無・立証手段の有無などが挙げられるように思います。)

 

 

これに関して、個人的に注目している事件があります。2018年4月29日に東名高速道路でおきたテスラ社製Model Xによる交通事故です。このModel X はオートパイロット半自動運転機能を搭載していました。

この交通事故で、被告人は自動運転自動車の暴走が事故原因であるとして無罪主張しましたが、事故当時居眠り運転をしていたこともあり、その主張は容れられず有罪判決となりました。

通常と違うのはここからであり、その後、被害者遺族がテスラ車の欠陥を主張してテスラ社本社があるカリフォルニアの連邦裁判所に訴訟提起しました。同訴訟ではそもそも日本で裁判を行うのが適切という判断がなされ、本年9月23日、カリフォルニアでの裁判は棄却されました。但し、その棄却判決は条件付きであり、テスラ社は裁判が日本で行われる場合でもデポジション手続(FRCP30(b)(6): 社内関係者の証人尋問手続のようなもの)に協力すべきこと等が命じられています。このデポジション手続は日本にはない制度であり、被害者側弁護士にとって欠陥を立証するための大きな武器となりうるものです。

被害者遺族の方の今後のご意向までは分かりませんが、仮に日本で裁判が行われて判決にまで至ることになれば、アメリカ流の強力な証拠収集方法も取り入れつつ、日本の裁判官が欠陥の有無について判断を示すことになります。

 

今後、自動運転が進むにつれて、自動車メーカーの責任を正面から検討しなければならない時代がやってきます。これらの訴訟がその先駆けとなるのかどうか分かりませんが、注目していきたいと思っています。